中国、ヘリウム輸出を一時停止|日本企業が確認すべき5項目と30・60・90日対応 [GeXPs26-0724JP]
- 中国商務部と海関総署は2026年7月10日、ヘリウム(中国税関商品番号2804290010)に対する臨時の輸出禁止管理を発表し、同日から施行しました。
- 中国はヘリウムの主要生産国というより、輸入・流通・再輸出経路としての役割が重要です。したがって、日本企業は「中国産の不足」だけでなく、中国経由・再輸出ルートの停止や遅延を確認する必要があります。
- 直ちに確認すべき項目は、①取引経路、②在庫日数と工程別使用量、③確定数量・納期・割当・契約条項、④代替供給元の品質・容器・設備適合、⑤医療・重要工程・研究設備の優先順位です。
- 終了日は公表されておらず、価格上昇率、日本企業の在庫量、特定企業の供給停止も一律には確認されていません。未確認情報を前提に判断しないことが重要です。
ヘリウムは、半導体製造、MRI、光ファイバー、精密溶接、リークテスト、航空宇宙、研究用極低温設備などで使われる重要な産業ガスです。供給が滞ると、単なる購入価格の問題ではなく、生産継続、保守計画、患者対応、研究設備の安全運転に影響します。
今回の措置で企業が最初に行うべきことは、ニュースの見出しだけで「世界のヘリウム供給が直ちに止まる」と判断することではありません。自社の調達が中国国内の生産に依存しているのか、中国で輸入されたヘリウムの再輸出に依存しているのか、商社・充填拠点・容器回収を含む物流経路のどこに中国が入っているのかを分解する必要があります。
1.中国の措置で公式に確認できる範囲
| 確認項目 | 公式に確認できる内容 |
|---|---|
| 発表日 | 2026年7月10日 |
| 発表機関 | 中国商務部(MOFCOM)・海関総署(GAC) |
| 対象品目 | ヘリウム |
| 中国税関商品番号 | 2804290010 |
| 措置 | 臨時の輸出禁止管理 |
| 施行日 | 公告日から即日施行 |
| 今後の調整 | 別途公告 |
- 措置の終了日
- 日本企業全体の在庫量、在庫日数
- 具体的な価格上昇率
- 特定企業・特定病院・特定工場の供給停止
- すべての国・地域で同じ影響が発生すること
中国側は、国内供給確保を措置の理由として説明しています。今後は国内外の需給動向に応じて政策を調整するとしているため、企業は発表時点の情報を固定条件とみなさず、追加公告とサプライヤー通知を継続確認する必要があります。
2.日本の産業にどのような影響があり得るか
半導体製造
ヘリウムは、冷却、雰囲気制御、リークテスト、装置保守などで使用されます。影響の大きさは工場ごとの工程、設備仕様、回収・再利用システム、契約形態によって異なります。調達部門だけでなく、生産技術、設備保全、品質保証と共同で工程別使用量を確認する必要があります。
MRI・医療機器
MRIでは超電導磁石の冷却に液体ヘリウムが利用されます。装置によって消費特性や再凝縮機能が異なるため、医療機関や保守事業者は一律の不足想定ではなく、装置ごとの補充計画、保守契約、緊急時連絡網を点検することが重要です。
光ファイバー・精密溶接・リークテスト
高純度ガスの品質条件、混合ガス仕様、圧力、容器、供給設備の適合性が代替調達の制約になります。別地域の供給元が見つかっても、純度、分析証明、容器規格、接続部、充填・返却体制が合わなければ、すぐに切り替えられるとは限りません。
航空宇宙・研究用極低温設備
ロケット、宇宙機器、試験設備、極低温研究では、使用目的ごとに品質・安全・運転条件が異なります。研究停止の影響だけでなく、設備を安全に維持するために必要な最低使用量を先に定義する必要があります。
3.日本企業が今すぐ確認すべき5項目
① 直接調達・中国経由・再輸出ルート
まず、契約上の売り手だけではなく、実際のガスの原産地、液化・充填地、積替地、保税倉庫、容器回収経路まで確認します。中国企業から購入していなくても、中国の充填拠点や再輸出機能を利用している場合は影響を受ける可能性があります。
- 原産国・生産地
- 液化・充填・分析証明書の発行地
- 輸出者、再輸出者、商社、物流会社
- 中国国内の港湾・倉庫・充填拠点の利用有無
- 容器返却・再充填ルート
- HSコードと通関申告内容
② 在庫日数と工程別使用量
総在庫量だけでは判断できません。タンク在庫、容器在庫、輸送中在庫、サプライヤー保管分を分け、工程別の1日使用量と最低安全在庫を算出します。特に、通常運転、減産運転、緊急維持運転の3シナリオを設定すると、意思決定が速くなります。
| 管理指標 | 算定・確認内容 |
|---|---|
| 物理在庫 | 自社タンク、デュワー、シリンダー等の実在庫 |
| 使用可能在庫 | 品質承認済みで直ちに使用できる数量 |
| 輸送中在庫 | 船積み済み・通関前・国内配送中を区分 |
| 在庫日数 | 使用可能在庫 ÷ 1日平均使用量 |
| 重要工程日数 | 重要工程だけに配分した場合の継続可能日数 |
③ 確定数量・納期・割当・契約条項
発注残があることと、供給が確定していることは同じではありません。サプライヤーに対して、数量、船積日、到着予定日、割当、不可抗力条項、代替履行、価格改定条件を文書で確認します。
- 確定済み数量と未確定数量の区分
- 船積み・通関・国内配送の予定日
- 顧客別割当ルール
- 長期契約の最低供給義務
- 不可抗力・輸出規制・法令変更条項
- 供給不足時の代替品・代替拠点に関する規定
④ 代替供給元の純度・形態・容器・設備・品質承認
代替調達は「他国から買う」だけでは完了しません。ガス純度、液体・気体の供給形態、圧力、容器規格、バルブ、接続部、貯蔵設備、分析方法、品質保証体制を確認し、必要に応じて工程評価や顧客承認を行います。
| 評価項目 | 実務確認 |
|---|---|
| 品質 | 純度、不純物項目、分析方法、COA、ロット追跡 |
| 供給形態 | 液体/気体、バルク/容器、圧力、充填単位 |
| 容器 | 規格、所有権、返却条件、検査期限、接続仕様 |
| 設備 | 貯蔵タンク、気化器、配管、継手、安全弁の適合 |
| 承認 | 社内品質承認、顧客承認、医療・安全関連手続き |
| 物流 | 輸送日数、港湾、危険物対応、回収・再充填体制 |
⑤ 医療・核心工程・研究設備の優先順位
供給制約が発生してから配分を決めるのでは遅すぎます。患者対応、安全維持、停止損失、復旧時間、顧客影響を基準に、使用優先順位と承認権限を事前に設定します。
- 生命・安全に直結する用途
- 停止後の復旧に長時間を要する設備
- 品質逸脱や廃棄損失が大きい工程
- 代替ガス・回収再利用が困難な工程
- 顧客納期や法令対応上の重要工程
- 研究設備の安全維持に必要な最低量
4.30・60・90日アクションプラン
最初の30日:可視化と供給確定
- サプライチェーンマップを作り、中国経由・再輸出・充填拠点を特定する。
- 物理在庫、使用可能在庫、輸送中在庫を分けて在庫日数を算定する。
- サプライヤーから確定数量、納期、割当、契約適用を文書で取得する。
- 重要工程、最低維持量、停止判断者を決める。
- 中国商務部・海関総署、JETRO、業界団体、主要サプライヤーの更新情報を定点確認する。
31~60日:代替調達の技術検証
- 複数国・複数事業者の代替候補を比較する。
- 純度、COA、供給形態、容器、設備接続、物流を評価する。
- 必要なサンプル評価、工程試験、顧客承認を開始する。
- 回収・再利用、使用量削減、漏えい管理の改善余地を確認する。
- 調達、製造、品質、設備、法務、財務を含む対策会議を定例化する。
61~90日:BCPと契約構造の再設計
- 単一供給元・単一路線への依存度を下げる。
- 長期契約、最低供給量、優先割当、非常時通知の条件を見直す。
- 代替供給元を実際に発注可能な状態まで承認する。
- 安全在庫と予備容器・貯蔵能力の妥当性を再評価する。
- 供給停止、減産、医療優先配分を含む訓練を実施する。
5.経営者・調達責任者が判断すべきこと
今回の措置は、ヘリウムの市場価格だけを見る問題ではありません。企業が確認すべきなのは、どの取引経路が止まり得るのか、何日生産を続けられるのか、どの数量と納期が確定しているのか、代替品を技術的に使用できるのか、供給が不足した場合にどの工程を守るのかです。
- 当社のヘリウムは、中国をどの段階で経由しているか。
- 通常運転・減産運転・緊急維持運転で、それぞれ何日継続できるか。
- 発注済み数量のうち、供給と納期が文書で確定しているのはどれだけか。
- 代替供給元は品質・容器・設備・顧客承認まで完了しているか。
- 不足時に医療、安全、重要顧客、核心工程をどの順番で守るか。
結論
中国の臨時輸出禁止管理は、ヘリウムを使うすべての日本企業に同じ影響を与えるわけではありません。しかし、中国経由・再輸出ルート、充填・容器回収拠点、長期契約と割当のどこかに依存があれば、調達遅延や再設計が必要になる可能性があります。
最優先は、取引経路、在庫日数、確定数量・納期、代替調達の適合性、重要工程の優先順位を数字と文書で可視化することです。価格情報や市場の噂だけで判断せず、公式公告、サプライヤー通知、自社の工程データを基に30・60・90日の対応を進めることが、事業継続の実務になります。
参考情報
- 中国商務部・海関総署公告2026年第29号(2026年7月10日、ヘリウムに対する臨時輸出禁止管理)
- JETRO「中国、ヘリウムに対する臨時輸出禁止管理を発表」(2026年7月17日)
- 日本産業・医療ガス協会(JIMGA)「ヘリウムのつくられ方」
- 経済産業省「半導体」経済安全保障・供給確保関連情報
注:本稿は2026年7月24日時点で確認できる公表情報に基づく実務整理です。措置の終了日、個別企業の供給状況、価格、在庫は変動するため、契約先・物流事業者・所管当局の最新情報を確認してください。

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